著者:ジェレミー・チャンス
小山千栄 訳
みなさんに、アレクサンダーの発見は、音楽家にとっていかに有益であるかを話していきたいと思います。
まず、自分自身の身体の調子を整えることができる、という概念を説明します。
身体の機能の仕方の良し悪しは、常に、その整え方によって決定されます。わたしたちは、自分自身を効率良く「使う」能力があるのだ、という概念をはっきりと認識したとき、日常生活での多くの活動を適切にこなしていくことが出来るようになるのです。今日は、どうすればこれができるか、ということを説明します。アレクサンダー氏は「人間の頭の動き方は、背骨と四肢の動き方を決定している」ということを発見しました。頭の動きの整え方が、脊柱の協調作用を決定し、つぎに手足の協調作用も決定されるのです。機能があやまっていると、頭と体の関係性にも悪い影響をうけてしまうのです。あやまった協調作用のありかたを正す方法論が、アレクサンダーの原理なのですが、この原理の根本には、「行動しないことによ� ��て変化をなす」、という考えがあります。身体の協調作用にあやまりがあるとすれば、わたしたちがしていることにどこか誤りがある、という考えです。したがって、最初のステップは、わたしたちの体に備わっている正常な協調作用を邪魔している「行為」をやめることなのです。そうすれば、アレクサンダーさんがよく話していたように、「正しいことは本来自然におこる」のです。
今日はまず、昔話からはじめます。けっして捕まえられなかったエジプト人の密輸業者の話です。ある日、警察官は、この男が町の商品を密輸する、と警告されました。密輸業者がロバに乗ってアレキサンドリアの門の前についたとき、警察官は男の荷物をすべて調べましたが、密輸品などどこにも見当たりませんでした。そこでしぶしぶ警官は男を逃しました。これは何度もおこったのですが、いつもどんなに男を調べても、ロバを調べても、警官は密輸品をけして見つけることはできませんでした。何年もたって、警官は密輸業者と友だちになったとき、聞きました。いったいきみはどんな密輸品を町にもちこんでいたんだね? 密輸業者は答えました「ロバさ。」
ときとして、もっとも重要な情報はわたしたちにとって自明のものとなりすぎて、見えないことがあります。音楽家は、自分の内に隠された楽器をもっています。それがあまりに自明のことになってしまっているため、その存在を実際に認知することができなくなっているのです。この隠された楽器は、音楽家がどのように演奏するかに作用します。音の質、音楽家の存在感、部屋の雰囲気に作用するのです。やがては、音楽家の職業生活の長さをも決定していくことになるのです。
これからイメージを見ながら説明を続けましょう・・・
!doctype>